大判例

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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)8158号 判決

○当事者

原告

原口好旦

右訴訟代理人弁護士

井田邦弘

右訴訟復代理人弁護士

井田恵子

被告

光陽自動車株式会社

右代表者代表取締役

富田健一

被告

鈴木繁

右両名訴訟代理人弁護士

冨永進

○主   文

1 被告らは、各自原告に対し金三四二、四八二円およびこれに対する昭和三八年三月一日以降完済に至るまでの年五分の割合による金員を支払え。

2 原告のその余の請求を棄却する。

3 訴訟費用は、これを五分し、その三を原告の負担とし、その二を被告らの平等負担とする。

4 この判決は、第一項にかぎり、仮に執行することができる。

○事   実

原告訴訟代理人は、「1被告らは、各自原告に対し金八二一、二〇四円およびこれに対する昭和三八年三月一日以降完済に至るまでの年五分の割合による金員を支払え、2訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、昭和三六年一二月二日午後五時四〇分頃東京都新宿区市ケ谷本村町四一番地先交差点において原告の運転する原動機付自転車(以下「原告車」という。)と被告鈴木の運転するトヨペツトクラウン六二年型乗用自動車(五を二三〇八号。以下「被告車」という。)とが接触し、よつて原告は右下腿複雑骨折の傷害を受けた。(以下省略)

○理   由

一、請求原因第一項(事故の発生および原告の受傷)の事実のうち原告の受けた傷害を除くその余の事実は、当事者間に争いがない。

しかして(証拠―省略)によれば、原告は本件事故によつて右下腿復雑骨折の傷害を受けたことが認められる。

二、そこで被告らの責任原因につき判断する。

(1) まず被告鈴木の過失の有無について審究するに、(一)事故の現場が新宿区市ケ谷見附方面から新宿方面に至る幅員約一三、五〇米のアスフアルト舗装道路と四ツ谷見附に至る幅員約八・六二米のアスフアルト舗装道路とが丁字型に交わる、自衛隊市ケ谷駐とん部隊兵舎前の交通整理の行われていない交差点であつて、事故の当時その附近は車両が市ケ谷見附方面から新宿方面に向つて列をなして進行していたことは、当事者間に争いがなく、(二)(証拠―省略)を綜合すれば事故の当時被告鈴木は、被告車にお客を乗せて新大久保から銀座へ赴く途中、事故の現場にさしかかり、同交差点を右折しようとしたのであるが、対向車が市ケ谷見附方面から新宿方面に向い、列をなして続いていたため、容易に右折することができず、右折の方向指示機を挙げて停止していたこと、当時の対向車の進行状況は、一〇米位進行しては停止するという所謂のろのろ運転がくりかえされておつて、同被告は、なかなか右折する機会に恵まれなかつたのであるが、たまたま日本交通株式会社のハイヤーが同交差点にその前車輪を乗り入れた状態で停車し、前車両との間隔を一二、三米位あけて、同被告に対し右折せよとの合図を示したので、同被告は、右折を開始し、急いでハイヤーの前方を横切ろうとした瞬間、ハイヤーの後に停車していた車両の脇から原告が原告車に乗つて飛び出して来るのを目撃し、同被告は危険を感じて急遽急制動の措置をとり、被告車の前部がハイヤーの車体から一尺位出た位置において停車したこと、そのため被告車の右折進行を突嗟に目撃した原告が同じく急制動の措置をとり、被告車との接触を避けようとしたが及ばず、原告の右足脛部が被告車の右前部バンバー附近に接触したこと、しかして原告は、自車の進行方向に進む車両が列をなして、前記のような進行状態を繰り返しているのを認めながら、しかも同交差点には信号機が設置されていないので、このような車両等の進行状況を続けている場合の交差点では、車両の陰から歩行者や車両等が何時出てくるかも知れないことを十分熟知しながら、交差点に進入する際、格別停止の措置もとらず、僅かに速度を二〇粁に減速しただけで交差点内に進入したことが認められ、右認定に反する原告および被告鈴木の各本人尋問の結果の一部は、措信できない。右認定事実に徴すれば、本件事故の発生は、原告の軽卒な運転行為がその一因をなすことは勿論であるが、被告鈴木の運転行為につき何らの過失がないというわけにもいかない。けだし、前記のとおり、事故の現場は、信号機の設置されていない丁字型交差点であり、しかも当時は対向車が列をなして進行、停止をくりかえしていたため、右折の際の左方の見通しは、十分きかない状況にあつたのであるから、同被告としても右折する際には、対向車の陰から本件のように原動機付自転車が進行して来て衝突することがないか否かを注意し、安全を確認のうえ進行すべきである。同被告が、もしこの注意をつくしていれば、本件事故を避けることができた筈であるから、同被告に全く過失がないということはできない。従つて、同被告は、民法第七〇九条の規定により原告が受けた後記損害を賠償すべき責任がある。

(2) 被告会社が旅客運送を業とするいわわるタクシー会社であつて、本件事故は、被告会社の従業員である被告鈴木が被告会社のため被告会社所有の被告車を運転していたときに発生したことは、当事者間に争いがないから、被告会社は、特段の免責任事由を主張立証しないかぎり、自動車損害賠償保障法第三条本文の規定により原告の受けた後記損害を賠償すべき責任を免れない。

しかして、被告会社は、本件事故が原告の一方的過失に基くもので、被告鈴木に何らの過失がないことを主張し、右賠償責任を争うけれども、右主張は、同法第三条但書の免責事由の主張としては不十分であるばかりでなく、前叙のとおり本件事故は、被告鈴木の過失もその一因をなしているものというべきであるから、右主張の失当であることは、明らかである。

三、次に損害について判断する。

A 財産的損害 (1)(証拠―省略)によれば、原告は、本件事故後、直ちに附近の伴病院に入院し、昭和三七年二月一〇日に退院するまで加療を受け、入院治療費金一一七、〇二〇円を支出したほか、付添看護婦に対し看護料金四〇、八〇六円を支出したこと、そしてその後は、自宅附近の梅田病院に通院治療を受け、治療費金二五、八九〇円の支払債務を負担したことが認められ、従つて原告は以上合計金一八三、七一六円の損害を受けたものということができる。

(2) (証拠―省略)によれば、原告は本件事故当時、不動産業を営む訴外早川土地に勤務し、一ケ月本給として金二五、〇〇〇円の収入を得ていたほか、毎月残業してその手当を受けていたこと、そして昭和三六年の九月一〇月、一一月の残業手当としてそれぞれ金四、〇〇〇円、一、五〇〇円、四、〇〇〇円を受領していたから、平均残業手当は金三、一六六円であつたと考えられること、ところが本件事故による受傷のため、原告は就労不能となり、訴外早川土地を退職したことが認められる。してみると、原告は、本件事故がなかつたならば、訴外早川土地を退職せずに毎月平均金二八、一六六円の収入を得られた筈であるにもかかわずら、事故のためその収入の途を閉されたのであるから、原告の主張するように昭和三六年一二月以降翌三八年二月までの一五ケ月間、毎月平均二八、一六六円の得べかりし収入を喪失したものということができる。従つて、原告は右一五ケ月間の合計金四二二、四九〇円の得べかりし利益を喪失し、同額の損害を蒙つたものということができる。

(3) してみると原告は、右(1)(2)の合計金六〇六、二〇六円の財産的損害を受けたものと認められるところ、前叙のように本件事故は、原告の過失もその一因をなしていたのであるから、これを考慮すれば、原告が受けた財産的損害は、金二四二、四八二円と認めるのが相当である。

B 精神的損害 (証拠―省略)によれば、原告は、昭和七年七月六日佐藤基次郎、同志ま子の三男と出生し、栃木県立足利工業学校を三年で退学した後は、東横デパートに勤務し、更に和食の板前として働いたりして、本件事故の三ケ月程前に訴外早坂土地に勤め、妻寿美江との間にうけた長男光旦(昭和三一年九月二八日生)、次女典子(昭和三六年二月一五日生)とともに幸福な家庭生活を送つていたこと、ところが本件事故のため右下腿複雑骨折の傷害を受け、その治療のため昭和三六年一二月二日以降三七年二月一〇日まで伴病院に入院し、そこを退院後は自宅附近の梅田病院に通院して治療を受けたが、今日に至るも事故前の状態に回復しえないこと、一方訴外早川土地は、本件事故と同時に退職させられ、その後は妻の内職と生活保護法による生活扶助によつて辛うじて生計を維持し、昭和三八年二月以降は店番程度の仕事を妻の父親の許でして、一ケ月金七、〇〇〇円の収入を得ていること、ところが被告らは原告が入院中に被告鈴木が二回程見舞に来たほか何らの慰藉の手段を講ずることなく、原告の友人である訴外小越与三郎が示談交渉に当つた際にも金一〇、〇〇〇円以上の金員を出すことはできぬと申し述べたことが認められる。右認定事実と本件事故における原告の過失などをあわせ考えると、原告の受けた精神的苦痛を慰藉するには、金二〇〇、〇〇〇円をもつて相当と認められる。

四、そうすると、原告は、前項A、Bの合計金四四二、四八二円の損害を受けたものということができるが、右の中、原告は、自動車損害賠償責任保険金一〇〇、〇〇〇円を受領したことを自陳しているから、これを控除した残額金三四二、四八二円が原告の損害である。

そこで被告ら各自に対する原告の請求中、右損害金三四二、四八二円およびこれに対する損害の発生後であること当裁判所に顕著である昭和三八年三月一日以降完済に至るまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分を正当として認容し、これを超える部分は理由がないとして棄却することとする。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条本文、第九三条第一項本文の規定を、仮執行の宣言につき法第一九六条第一項の規定を適用して主文のとおり判決する。(裁判官 吉野 衛)

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